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名古屋高等裁判所 昭和53年(う)57号 判決 1978年5月08日

本籍

三重県桑名市新矢田二丁目七六番地

住居

三重県桑名市大字矢田四九〇番地

鋳造業

丹村四郎

昭和七年八月一九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、津地方裁判所が昭和五二年一二月二三日言い渡した判決に対し被告人から適法な控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官高木重幸出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人和藤政平、同森川翼徳連名の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、原判決の量刑が重過ぎて不当である、というのである。

所論にかんがみ、記録を調査して検討するに、証拠に現れた本件各犯行の動機、態様、罪質等、とくに、本件は鋳物製造業を営む被告人が、いわゆる狂乱物価の影響等により、鋳物製品の値上りや生産量の増加等によって巨額の収益を挙げたにもかかわらず、将来の不測の事態に備えて、自己の資産を隠匿しようと企て、所轄の税務署長に対し内容虚偽の確定申告書を提出するなどして、約二年間にわたり総額五、七六一万七〇〇円の所得税をほ脱したというがごとき所得税法違反罪の案件であって、そのほ脱額が相当高額であるのに加え、犯行の手段方法が巧妙悪質であると認められることなどを考慮すると、原判決の量刑は、これを相当として是認するのほかはなく、所論指摘の諸事情のうち、被告人が本件犯行発覚後所得税の修正申告をして、未払い部分の所得税を完納し、さらに重加算税の支払いをも継続していることなど、肯認し得る被告人に有利な一切の情状を十分斟酌しても、右量刑が所論のごとく重過ぎて不当であるとはとうてい認められない。論旨は理由がない。

よって、本件控訴は、その理由がないから、刑事訴訟法三九六条に則り、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤本忠雄 裁判官 服部正明 裁判官 木谷明)

控訴趣意書

被告人 丹村四郎

右の者に対する所得税法違反被告事件の控訴趣旨は次のとおりである。

昭和五三年三月八日

主任弁護人 和藤政平

弁護人 森川翼徳

名古屋高等裁判所

刑事二部 御中

原判決は、次の理由によりその量刑著しく重きに失し、不当であるから、到底破棄を免れないものと思料する。

一、被告人が、本件脱税に思い至った動機は、昭和四八年に、被告人が経営する益生鋳造所の利益が、鋳物製品の値上り・生産量の増加によって、著しく増大した(昭和四七年の利益は、約五〇〇万円、昭和四八年は約八、七〇〇万円。)ために、この機会に、同鋳物造所の資産を蓄積し、将来の不測の事態に備えようとしたものであって(丹村久子の検察官に対する昭和五一年一二月二四日付供述調書、被告人の検察官に対する昭和五二年一月五日付供述調書)、経営基盤の脆弱な個人企業の経営者としては、無理からぬものがあるというべきである。

二、本件脱税の手段・方法に鑑みても、仕入先と何ら通ずることなく、一方的に、架空仕入を計上するなど、極めて単純なものであったことは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べられた証拠上明らかなところであって悪質なものとは言えない。

三、また、本件犯行の遂行は、被告人自身の意思にもとづくことは、勿論とするも、右益生鋳造所の関与税理士が本件犯行の事情に知悉しながら、黙認さらには慫慂したことが窺われる(水谷安吉の大蔵事務官に対する質問てん未書三通・被告人の検察官に対する昭和五二年三月八日付供述調書)のであって、税務の専門家である右税理士が、納税が適法適正になされるよう納税者を指導・助言するという職務上の義務を正しく行なっていたならば、本件犯行は、事前に抑止しえたものであって、その責任を一人被告人にのみ負わせることはできないというべきである。

四、本件犯行が、発覚後、昭和五〇年末に、被告人は、昭和四八年度ならびに同四九年度の所得税の修正申告をなし、未払部分の所得税を完納した(被告人の検察官に対する昭和五二年一月五日付供述調書)重加算税は、二、〇〇〇万円を課せられ、昭和五一年より月五万円づつ支払をしているが、不景気でその支払に窮している(被告人の検察官に対する供述調書)ものであり、本件犯行について、被告人は、深く悔いておるので、再犯のおそれは全く存在しない。

五、以上の諸事情を総合すると、原判決が、懲役一〇ケ月(執行猶予三年)及び罰金一、二〇〇万円に被告人を処したのは、その量刑著しく重きに失し、原判決は、不当であるから、これを破棄の上、更に裁判を求めるため本件控訴に及んだ次第である。

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